読書を楽しむ「湊かなえ リバース」
自分こそが広沢の親友だと思っていたのに なさけないほど広沢のことを知らなかった その広沢は3年前の夏、車の転落事故で亡くなった リバースとは「戻す」という意味があるらしい。 深瀬和久はニシダ事務機器に勤務する営業マン。 入社3年目で深瀬が先輩社員に期待されていることはコーヒーを コーヒーメーカーで淹れることだった。 深瀬はコーヒー豆を持参して淹れていた。 雨に降られ足を止めた路地に<クローバー・コーヒー>という コーヒー豆専門店を見つけた。 店の奥に喫茶専用の部屋があった。 以後、深瀬はこの店に通うようになった。 越智美穂子をこの店で初めて見かけたのは4ケ月前だった。 仕事帰りに店を訪れてときに彼女は深瀬の定位置の場所に座っていた。 これがきっかけでふたりは週に三度は店で一緒になった。 彼女は<グリムパン>という店で働いていた。 付き合って3ケ月を経過した時に彼女が彼のアパートを訪れ彼女宛に 来た封書を深瀬に見せた。 そこには「深瀬和久は人殺しだ」と書かれていた。 深瀬は手紙の差出人はあいつではないかと考えたが、死者が手紙など 書けるはずがないと思い、警察に話したことと同じことを美穂子に 話そうと決めた。 深瀬は人生初の親友・広沢の事故の話を打ち明けた。 深瀬は3年前の夏、大学のゼミ仲間と新潟県と長野県の境に位置する 斑丘高原の友人の叔父の別荘に友人の車で行くことになった。 メンバーは深瀬、村井、谷原、浅見、広沢の5人だったが村井が当日車の 追突事故に遭い後から来ることになった。 別荘に着いてTVをつけたら台風が今夜関東に上陸と言っていた。 バーベキューは無理そうなので台所にあったホットプレートで 焼肉の準備をはじめた。缶ビールで乾杯した。 焼肉パーティーがはじまり、外から雨音が聞こえ始めた。 村井から電話があり、無人駅にいるのでと車の迎えを頼まれた。 酒を飲んだので迎えは無理だと一度は断ったが広沢が量を飲んで いなかったので俺が行くといい出かけた。 1時間を経過した頃、村井から電話があり迎えがまだこないと言った。 浅見と谷原はガレージにあったマウンテンバイクで広沢を探しにいった。 浅見から電話があり自動車がガードレールを突き破って転落したような痕を 見つけたと連絡があった。 美穂子は深瀬に言った。 「全員がお酒を飲んでいたこと、広沢は免許を取って日が浅かったこと、 天気が悪く走りにくい道だったこと、そんなことを全員が知っていて広沢を 送り出したことは無罪と言わない」。 深瀬は手紙のことを考えた。 いったい誰が何の目的でー。 美穂子に気のある奴が深瀬と美穂子を別れさせるために調べて、事故のことを 知ったのでは。 同様の手紙が、大学のゼミ仲間にも送りつけられていたことが発覚する。 ”あの事件”を誰かが蒸し返そうとしているのか。 真相を探るべく、深瀬は動き出すがいざ調べ始めると広沢のことについて 知らないことが多すぎた。 親友・広沢がどんな人生を送ってきたのか遡って知りたかった。 新聞には毎日いろいろな事件が掲載されているが結果報告だけで終わっている。 事件の裏には加害者と被害者がいて、被害者は事件を忘れることができないが 加害者はいつしか事件のことは忘れていく。 リバースはそんな被害者の心情を書いたような気がする。 また、現代の希薄な人間関係にも警鐘を鳴らしたかったのかも知れない。