読書を楽しむ「加藤秀行 海亀たち」
海外に出てから、戻ってきて故郷で活躍する人々を 海亀と呼んでいる 1枚の写真がある 白砂に生えた椰子の木、濃く青い空 エメラルドグリーンの海 そして、生ぬるい海風が吹き渡る ウェブ広告の営業マンをしている坂井は営業先の代官山の美容室で1枚の 写真を見た瞬間、こういう海辺に店を構え、そういう人生が地球のどこかに あると埋もれていた欲望が頭をもたげた。 営業マンになって2年半が過ぎていた。 写真に出会い坂井は、こんなところで何をしているのかと興奮は冷めること なく1週間後に会社に辞表を出した。 行先はベトナムの新興都市ダナン。持参金は貯めた200万。 降り立ったらあの海辺はどこにもなかった。 灰色の海辺がそこにはあった。 ゲストハウスの営業を開始したが、客はまばらで金は水が抜けるように 消えて行った。結局、坂井の挑戦はたった半年で幕を閉じた。 すべてを清算し大雨の日にホーチミンに辿り着いた。 なんて愚かなのかと気づいた。気づいたから次があるという物語。