読書を楽しむ「須賀ケイ わるもん」
わるもんって父親のことだった 簑島家では娘の純子と鏡子と祐子にとっては父、母の涼子には夫。 しかし家族にとってはいつも、悪者。 父は自宅の納屋を改装して、そこに硝子品をつくる小さな工場を設けた。 母は厠だといい、鏡子は準ゴミ屋敷、祐子は豚小屋、純子には秘密基地だった。 高校生の祐子が煙草を隠れて吸ったのも工場だった。 煙草をぷかぷか吸う父の影響だった。 涼子が夫に文句を言ったらでかい屁をこいた。 簑島家には広い庭がある。 父はそこで横になると母が跨ごうが、掃き掃除をしようが動じない。 パンのカスを庭に投げ入れるものがいた。 父は、秋桜に引っかかった食べカスを拾い集めた。 涼子はそれを見て青筋を立てた。 玄関に見知らむ靴があっても泥棒ではなく、父が銭湯で誰かの者と履き違えて帰って きたためだった。父にとっては日常茶飯事だった。 裁縫をしているとき、絵本を読んでいる時、マニキュアを塗っている時、トイレで用を 足しているとき急に電気が消えたら父の仕業だった。 父には家族の姿が見えていない。 母と鏡子と祐子も父の姿が見えていない。 3人がいないのと同じようにふるまうから。 5人家族のうちで4人が女であれば男は悪者かも知れない。 男というモノは、時としておかしな行動を取る。 浜辺に流れ着いた漂流物を拾ってきて庭や工場にためていく。 家族から見れば辞めてと思うが、世間から見れば浜辺の清掃活動に尽力した ということになる。 女の中に男がひとりということは、居場所がなくて無駄なことや馬鹿なことを してしまうということを女は理解できない。