読書を楽しむ「谷村志穂 千年鈴虫」
偽の源氏が作り出す倒錯の世界に足を踏み入れた娘 その、偽源氏は母が恋焦がれた男だった 母の誘いでカルチャーセンターに通い始めた木田千佳。 長野でひとり暮らしの母が月に二度の源氏物語の文化講座に東京へ通うことになり、 母と娘にとって悪くない時間の過ごし方だと思えた。 教室の扉を開けて入ってきた講師は、どこか投げやりな調子で講義をはじめた。 老いた講師は長野の出身で大橋征一といった。 昼間から臆面もなく源氏の繰り広げる愛憎劇を読み解く男は、千佳が幼稚園時代の 母の憧れのひとだった。 母は講義の翌日、大橋を誘って食事をし、かっての恋心を告白したが あるとき、母は講義を休むようになりはじめた。 母は鈴虫になり、哀しみの声を響かせていた。 大橋は年老いても初なおばさんたち相手にジゴロ気取りでいた。 そんな母が恋焦がれた男と千佳は週に一度、寝ている。 そして、自らの行為を愚かだと思っている。