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読書を楽しむ「金子 薫 壺中に天あり獣あり」

CIMG8613.JPG                            人は生まれ落ちた迷宮から、外に出ることができるのか                            迷宮の中を光は当て処なく歩き続けていた。                                          迷宮と言っても広大なホテルであり、部屋の数は無限で、廊下の延長も無限で、                             そこで過ごす時間も永遠と映る。                                    彼は部屋に入ると机の上のノートに蝶の絵を描き部屋に入った印を残す。                       階段を歩いていると人に会うこともある。                                              お互いに骨折り損をしていると認め合う。                                                光は酒場を見つけ先客の男たちと無限に乾杯と言って酒を酌み交わす。                               言海は迷宮の玩具店で働いている。                                            ブリキの動物を磨く作業をしていたが犀を分解してから修理もするようになった。                                光は廊下を歩き、螺旋階段を上り下りし時間を空費していた。                              歩き廻った末に資料室の点在する区域に迷い込んだ。                                       小説を読み漁り過ごしながら抽き出しのなかにも興味を抱いて、建築図面を見つけた。                    その平面図は客室の間取りを示していたが図面の数も無限にあった。                         そのころ、言海は架空の獣を生み出そうとしていた。                             鳥類の翼を哺乳類の背中に移したりして、あるはずのない翼のある象などを                      誕生させた。                                             寝る間も惜しんで玩具を弄り、ブリキの動物たちのために修繕や改造をした。               彼女はいつの日か動物たちを連れて、どこか別の場所へ移住したいと思った。                                 光は図面が役に立たないことを悟り、自ら地図を作成した。眠るための部屋と                       酒場の位置が記された地図だった。                                        二日酔いの身体で螺旋階段を上り切ると、その先に広大なホールがあり、内部に                   一棟のビルが収まっていた。                                      そのビルはホールの天井に青空が描かれた十階建てのホテルだった。                                    光が知っているホテルは無限の迷宮で出ていくべき外界が存在しなかったが、                     このホテルには玄関もフロントもロビーもあった。                                       光はホテルの支配人になり従業員を雇い、客を呼び込むためのポスターを貼る                       ために迷宮へ出かける。                                       言海は、ポスターを見て、動物たちとホテルを目指すことを決意する。                  迷宮はどこまでも迷宮であり、何を見つけても、何かをしても、                  ただそれだけのことでいつかは飽きて、また当て所もなく歩き続ける                   ことになる。蟻地獄だ。                                        読者も迷宮の中を読まされ、読み終わって見ればまたもとの場所に                      戻ったような不思議な感傷に浸ることになる。



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