読書を楽しむ「谷村志穂 みにくいあひる」
短大を卒業した詩織は銀座のカフェでアルバイトをしていた 店の常連客の新聞記者・秋山にラジオ局がアルバイトスタッフを 募集していると聞いて彼の紹介でラジオ局に入社した 上司はポロシャツにチノパンが似合う斉藤だった 以来、連日連夜、皆で最新の音楽や映画や流行を追いかけて、夜になると ばか騒ぎをしていた。 斉藤とは同じチームで局内のスタッフから羨ましがられたが男と女の 関係にはならなかった。 そんな詩織は結婚で多くの友人や仲間を失った。 妊娠に気づいても同僚には告げなかった。 夫の内山康也とは六本木のクラブで知り合った。 五反田の酒屋の息子で三歳年下で美形でも遊び人でもなかった。 彼はたまたま友人に連れられてきただけだった。 話しかけられたときの笑顔が焼き付いて悪い人ではないと思った。 食事に誘われたとき、ひとりだったので、いいわよと答えた。 詩織の選んだ男はこれまで付き合った男の中で一番平凡だった。 日々をお祭りのように過ごしてきた女性が平凡な男と結婚し赤ん坊を産んで 平凡な主婦になった。 このことに彼女はジレンマを感じていたが母親が娘に言った。 「今までの男はみんな素敵だったけど、誰ひとり詩織を安心して任せられ そうになかった」と。 人生なんて流れに任せて、思い煩うことなく生きよということだ。