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読書を楽しむ「王谷 晶 君の六月は凍る」

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君の顔を最後に見てから30年も経っていた

わたしがそれを知ったのは7月の初めで

真夏みたいに暑い日だった

君は6月に食品加工工場の冷凍庫で

鶏肉と一緒に凍りついた状態で発見された

わたしと君はあの町で生まれた。町にはレストランはなく、飲食店は大人が夜集まる店が数件あった。こどもは学校以外に居場所がなかった。こどもは全員が同じ学校へ通い、全員がお互いを知っていた。君が住んでいた家とわたしの家は近所だった。わたしは犬の散歩で君を見かけることが何度かあった。わたしには4つ年上のBと犬のJがいた。学校には鳥小屋があり、数羽の鶏が飼われていた。その鳥小屋に君はスケッチブックを持って鶏をスケッチしていた。そして、わたしと君はいろいろな場所ですれ違いざまに挨拶をするようになった。君が風邪で学校を休んだ時に好奇心で君の家にプリントを持って行った。家には君の兄弟のZがいた。鳥小屋で雛が三羽生まれ、君は鍵を開けて布のバックの中に一羽を掴んで入れ連れて帰った。Zが角材や板切れで鳥小屋を作った。「名前は」と聞いたら、君は「ないよ」と答え、理由を聞いたら「いわなきゃいけない理由がないから」と答えた。3人でソーダを飲んでいるときにZの身体と君の身体から同じ汗のにおいがしていた。学校が休暇の間Bは旅行へ行ったり遊びにいったりしてほとんで家にいなかったのでBの部屋で過ごした。Bの部屋にあったシャツを身体に当てたら、そのシャツからZと君と同じ汗のにおいがした。あるとき、町の養鶏場で鶏の病気が発生し感染が広まり、学校の鳥小屋の鶏も殺されました。君の家の鶏のこどものことをわたしは町役場に知らせた。その夜、君の家から凄まじい人間の叫び声が、声に生命を乗せて全て絞り出したような君の叫び声がした。君は学校へ来なくなり、BとZが一緒にいなくなった。両親はパニックになり捜査願いも出したがわたしは事件でないと知っていました。やがて、君が遠縁に引き取られたという噂を聞いた。君は6月に凍ったけれど、わたしは30年間ずっと凍りついていた。私の耳の中では30年前の君の叫びが聞こえる「ずっとこのままでいてほしい」。30年前のわたしの思い出。

新しい作家の新しい感覚の物語を読んだ。場所も年齢も性別もわからないけど落語と同じで最後にオチがちゃんとあった。素直に読んで読者がどう考えるかは自由だ。


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