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読書を楽しむ「乾 緑郎 戯場國の怪人」

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隅田川に浮かぶ屋形船に

江戸若女形の筆頭・瀬川菊之丞が

荻野八重桐に誘われ

芸達者衆と一緒に蜆採りにきていた

菊之丞は酔いも回り屋形船に残り

八重桐は小舟に乗り蜆採りに出かけ溺れ死んだ

元高松藩士平賀源内は、今は浪人である。戯文などを書いて小金を稼いでいた。版元の貸本屋から八重桐溺死の真相について書けと言われたが調べが行き詰まり、講釈師の深井志道軒に知恵を拝借にきた。八重桐は何者かに引き摺りこまれるかのように、泥の中に沈んで行き、そのまま行方が知れなくなった。菊之丞を芝居茶屋に呼んで一席設けることになった。茶屋には舞台が終わった市村座の関係筋が座敷に入ってきた。菊之丞から蜆採りの日の話を聞いた。菊之丞は屋形船の座敷で横になり寝入った後、目を覚ますと小舟から男が乗り移ってきた。男は菊之丞が女形の名を不動のものにした「鷺娘」観たと言い、私の顔に見覚えはないかと尋ねたが知らないと答えた。菊之丞は最近市村座の東側の上桟敷の同じ席を、ずっと買い占めている客のことを思い出し、貴方様ではございませんかと尋ねた。その客はいつも姿を現さないため楽屋で怪談話になっていた。男は答えず、菊之丞の体を引き寄せ、着物の裾に手を入れたがすぐに手を引っ込め背を向けた。菊之丞が女の体ないから男はためらった。眩いばかりの明かりが差し込んで丸に寶の紋が入った芝居小屋が建っていた。男は菊之丞に身上書を交わしてもらいたいと言われたときに菊之丞は起きてくださいと役者仲間から言われ目を覚まし、八重桐が溺れたことを聞いた。志道軒はその櫓紋が50年前に廃座になった山村座のものだという。山村座は「江島生島事件」がきっかけで廃座になった。大奥の御年寄・江島が山村座に立ち寄り芝居見物をして、看板役者の生島新五郎を芝居茶屋に呼び出し、大奥の門限に遅れ重罪となった。生島は三宅島に遠島になり、山村座も座元が遠島になり官許を取り上げられ廃座になった。

芝居小屋とは一つの国で、これを戯場國(けじょうこく)といい役者の堕ちる地獄のこと。人の情念が集まる芝居小屋も廃座となれば地獄に落ちて異形と化す。山村座は冥府で戯場國になった。

数日後、市村座の髪結いの仙吉が志道軒を訪ね、市村座で妙なことが起きていると告げる。幽霊が桟敷を買っていると言う。東上桟敷の奥から五番目を毎日買う客がいて、金子(きんす)は帳場に書き置きと一緒に何十日分をまとめ払いしているという話だった。志道軒の娘・お簾が訴事解決を引き受けた。東上桟敷五番の席の引き戸を引いたら空井戸があった。やがてお簾は、菊之丞が本物の菊之丞でなく化け物が化けていることを掴む。東上桟敷五番で起きている怪異はまだまだ序の口。山村座で起きた「江島生島事件」を柱に、遠き平安の世で起きた悲恋物語や深井志道軒の奇怪な生い立ちへと続いていく。荒唐無稽で摩訶不思議な怪奇物をお好きなひとにお勧めです。


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