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読書を楽しむ「村雲菜月 もぬけの考察」

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わたしが引っ越したマンションの408号室は

床に一センチほどのフローリングが削れた窪みがあり

玄関のドアは閉まりが悪く

入居当日からエアコンは壊れていた

設備が良い割に家賃が安いと

思って決めたらこの有り様だった

ポストのカギは壊れていて、そこに大量のチラシと郵便物が押し込められていた。ポストに入っていたものを時系列順に並べ、この部屋の前の住人の考察をはじめる。郵便物には若葉栞と記載されていて退去日の数か月前にこの部屋から姿を消していたことが光熱費の検針票から推察できた。家賃も踏み倒していたため保証会社から注意勧告が来ていた。若葉栞はどこへきえたのだろうか?わたしが引っ越してくるまでこの部屋で起きた出来事を知ることはできないので、インターネット上で詐欺を働いて蒸発したとか、誘拐事件に遭ったとか、森林浴に出かけ迷子になっかとか、記憶を失い帰る場所がわからないとか、くだらない考察をはじめた。

わたしは貧乏画家で年に1枚から2枚依頼された押絵を納品等しながら食いつないでいる。今、「部屋」という作品を生み出して、部屋に部屋の絵を描いている。部屋には机(絵)と机(実体)があり2つも机は必要ないので捨てられる机(実体)を捨てることにした。同じようにタンスもテレビもベッドも描いて捨てていった。半年ほど経ったころ。業者が部屋に入り込み部屋の撤去がはじまった。ハウスクリーニングが入り部屋で自分が描いた絵を鑑賞できなくなった。わたし自身が前の住人となり考察は終了した。


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