読書を楽しむ「近藤史恵 ホテル・カイザリン」
ホテル・カイザリンは明治時代の洋館を改装した
山の中腹にあり
各部屋にはシェイクスピアの戯曲の名前がついている
観光や仕事の旅行で宿泊するには
不便で、温泉もないが
滞在者は、ホテルに泊まることを目的としている
現実を忘れたいひとり客が、なにもしないことを
楽しむホテルでもある
駒田鶴子はマクベスの部屋に泊まり、ライブラリーで本を選んだり、ロビーのソファに座って暖炉の火を眺めたり、ただ庭を散歩したりしていた。1年前の10月に庭園で麦わら帽子をかぶっていた愁子に出会った。はじめて話をしたのは、その年の12月にホテルのロビーで高校の同級生にあだ名で呼ばれ、違いますといったが嘘だと言われ困っていたら、女性が「その方は、菱川さんではありませんよ」と言ってくれた。その女性が八汐愁子だった。鶴子は第二火曜日にホテルに泊まることが多かった。愁子は泊まる日を決めてはいなかったが、第二火曜日に泊まった時に鶴子を見かけていて話をした。鶴子の夫はレストランを経営していて第二火曜日に夫が上海へ出張に行くためホテルで息抜きをしていた。ふたりは第二火曜日に会うようにした。愁子はピアノ教師で夫の遺産で生活していた。ふたりは毎月会うようになりキスをするようになった。そんな鶴子がホテルに放火した。彼女はホテルがなくなればいいと言った。彼女がホテルに火を放った動機が知りたい人は本を読んでのお楽しみ。