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読書を楽しむ「玄侑宗久 桃太郎のユーウツ」

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佐藤桃太郎は、子どもができず不妊治療にも励んだ

佐藤夫妻が那須の寺の境内で拾った捨て子だった

佐藤清成お爺さんが平成5年に宇都宮の実家で死んだことがきっかけで桃太郎は18歳の時に家を出る決意を固め、このとき代々伝わる「桃太郎の秘密」という本を鞄に入れて東京に向かった。本には「桃太郎と名づけよ」という第一指令と、本人宛に届く第二指令のことが書かれていた。桃太郎はキャバレーの客引きになり、その後にサンドイッチマンやサラ金の取立屋になったが弁護士からの過払い金請求が厳しくなり、派遣社員になって福島のゴミ焼却場で働いた。ところが福島で震災に遭い職を失い、除染を生業とする神徳産業に入社して今日に至っている。桃太郎はユーウツだった。酒を飲んでも少しも酔わない体質で、この先自分の体がどうなっていくのか、考えるだけで不安だった。「桃太郎の秘密」は五代前の鈴木桃太郎によって書かれ、四代前の平河内桃太郎が活字にして製本し、バイブルのように読み継がれていた。三代前の大川桃太郎は薩摩半島から特攻機に乗り、第五代の山代桃太郎は朝鮮へ出兵していた。指令を出す機関とはいったい何者で、どこからどんな指令が来て、どんな死に方をするのか、四十年の人生を疑心暗鬼で暮らしてきた佐藤桃太郎。このことについても桃太郎はユーウツだった。桃太郎とは何者か、桃太郎に成敗される「鬼」とは何なのか。成敗する鬼は誰なのか、知らされるまでの時間はユーウツとしか言いようがない。そして第二指令と思しき電報が書留で佐藤桃太郎に届いた。結果は読んでのお楽しみ。


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