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読書を楽しむ「ディヴィッド・マークソン ウィトゲンシュタインの愛人」

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最後のひとりとして生き残った女性の話

地上から人が消え、最後の一人として生き残ったケイト。彼女はアメリカのとある海辺の家で暮らしながら、終末世界での日常生活のこと、日々考えたとりとめのないこと、家族と暮らした過去のこと、生存者を探しながら放置された自動車を乗り継いで世界中の美術館を旅して訪ねたこと、ギリシアを訪ねて神話世界に思いを巡らせたことなどを、タイプライターで書き続ける。彼女はほぼずっと孤独だった。そして時々、道に伝言を残していた……(図書刊行会 内容紹介より抜粋)

道に伝言を残したのは全部で三回か四回で正気を失っていた時期だった。家の二階から海が見え、一階からは砂丘が見える。一人暮らしをしていると水辺の眺めを好んだ。夏の間は何も身につけなかった。ケイトは芸術家だったらしいが家には絵を描く道具がなかった。時々ウィーン出身の哲学者ルートヴィヒ・ウィトゲンシュタインが登場する。アリストテレスをウィトゲンシュタインが読んでことがなかったという話をどこかで読んだとか、彼が書いた文は難しくて読めないと言いつつ読んだことがあるとか、あなたのセンテンスは私のお気に入りだと言えたら楽しいだろうとか、ルートヴィヒという名前はタイプすると間抜けに見えるとか、彼が幼かった頃に、ブラームスがウィトゲンシュタインの家を訪れていたとか、現存在やブリコラージュの言葉とか世界はそこで起きることのすべてだという文について説明して欲しかったとか、彼がアイルランドのゴールウェイ湾近くで暮らし、餌をもらいに来るカモメをペットにしたとか、クラリネットを演奏したとか、修道院で庭師として働いていたとか、かなりの額のお金を相続したが、すべて手放したとか、そして、ケイトはウィトゲンシュタインに会っていれば、彼のことが好きになっていただろうとか、ウィトゲンシュタインがケンブリッジ近辺を散歩するとき、ポケットに砂糖を入れて持ち歩き、野原で馬に出会ったら与えるためだったとか、彼は生涯結婚せず、愛人もいなかったとか、それは彼が同性愛者だったからとか。ケイトのように生き残ったらどうするか、まだ考えが及ばない。