読書を楽しむ「稲葉真弓 月兎耳の家」
82歳の叔母が左足首を骨折した 病院は退院したが不自由さに困り果てていて 1ケ月ほど住み込んで面倒を私がみることになった 佐奈叔母は姉である母より三つ年下だった。 食事の世話や洗濯などを頼まれた。 若い頃の叔母はモノクロ写真の中であかぬけた着物姿をしていた。 戦時中は赤十字に勤めていたが、突然女優志願に変わり、劇団のような ところに潜り込んだ。 恋人ができても次々に恋人が変わり住所は不定だった。 その話をしたら貧乏だったから住所が転々としたことがわかった。 やがて叔母はある劇団の看板女優の葵の付け人になった。 葵は妊娠したが誰の子か分からず、その子は産まれて3年もしないうちに 病気で亡くなり、子を失ったことで葵は壊れていった。 叔母は葵の家に同居して50年近く姉妹のように暮らした。 葵は両親から家とアパートを引継ぎアパートの家賃収入で暮らしていた。 散歩で町にでたときに葵は花屋で月兎耳という植物を購入した。 葵にとっては月兎耳の葉の1枚1枚が赤ん坊の皮膚の感触だった。 やがて葵は栃木の施設に入り、叔母もその施設に引っ越すことになっていた。 ふたりの女が寄り添うように生きた家で ふたりは地味な植物・月兎耳を育てていた。 人生は小説より奇なり。