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読書を楽しむ「山田詠美 肌馬の系譜」

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バラエティに富んだ珠玉の13篇

男女の色恋について厳しかった祖母が敷地の一画に女子専用のアパートを建てた。亡くなった祖父の昔からの知り合いの息子さんだという60代の小島さんが管理人におさまった。管理人が女でなかったのは小島さんが男と認識されていなかったからだった。そのとき小学生のわたしは小島さんの話し相手になり管理人室へ入り浸りになった。小島さんが読書をしていたので覗いたら襦袢をまとわりつかせた半裸の女が男たちにいたぶられている絵だった。小島さんはわたしに窓の隙間から風呂場を覗かせてくれました。相手に気づかれない観察者は、女の自由を奪うことなく、好き放題にさせていた。天井裏に入り込み節穴から部屋を覗きもした。誰も見てないと女ってのは何をするか解らないという。(わいせつなおねえさまたちへ)

ポリティカル・コレクトネスという社会の特定のグループのメンバーに不快感や不利益を与えないように意図された言語、政策、対策を表す言葉で、人種・宗教・性別などの違いにより偏見・差別を含まない中立的な表現や用語を用いることを指す。女流作家・山川英々は差別語をいかにして他の言葉に言い替えるか腐心してきた。(FxxK PC)

ニューヨークのチャイニーズレストラン「ヤムヤム・キッチン」にブッディスト・ディライトという野菜を蒸篭でスチームした料理を毎回食べに出かけ、話し相手を見つけた。(ブッディスト・ディライト)

自分の息子を疎ましく感じてしまうことがある母親。息子は自分で自由に料理を口に運べるようになると、思い出したようにお気に入りの絵本を取りに行こうとしたので食べてからねと言って、いつもの他愛のない攻防で息子が死んでしまった。(私の愛するブッタイ)

両親が喫茶店を経営していました。自分が人殺し以前の純朴だったころを両親と兄とわたしの4人家族で平凡な幸せに浸りきっていた。そのわたしが14歳で撲殺という手段を使って人をあやめた。(たたみ、たたまれ)

沼正子はブログ「家畜人ヤプ子」を開設していた。筆名の沼正子は「家畜人ヤプー」の作者・沼正三からいただいた。正子は自発的ヤプーになり自分の進むべき道を見つけ、自発的ヤプーの快楽は、支配者との微妙な駆け引きによって相手とのバランスでS度を増したり、M寄りに傾いたりしていた。正子は仲良しの魔里夫と二人きりでイース帝国を作ったのでした。(家畜人ヤプ子)

「朴念仁」とは自身に向けられた恋愛に関する好意に気づかない鈍感なひと。愛する朴念仁を追いかけ金沢に単身赴任した男に月に一度会いに行く女の話。(ぼくねんじん)

その村には、そうなったことを知っている者はいない。自分が生まれていた時からそれは繁っていた。川のほとりに陰茎群生地帯が広がっていた。村を存続させるために必要不可欠なものとして大切にされてきた。この村の住民は女ばかりだった。(陰茎天国)

美浜のアメリカンビレッジのショップでタミーは米軍放出品の中から「ジョーンズさんのスカート」を見つけた。タミーは基地内で働く父とふたり暮らしで父が仕事中はアメリカ人の同僚の家に預けられていた。預けられた先はジョーンズさんという。その家でタミーは「ミー・アンド・ミセス・ジョーンズ」というせつなくなる恋の曲を聴いていた。(ジョーンズさんのスカート)

ニューヨークに滞在していた理沙は、友人のさよ子がアメリカ空軍勤務の夫が転属でドイツから夫の実家のあるミューヨークに戻り、ふたりは待ち合わせをして理沙はさよ子の夫の実家に泊まった。そこで10歳のクリスと出会った。(MISS YOU ミス・ユー)

ジョンと出会った時、彼は新宿の雑居ビルにあるカジノで使いっ走りをしていた。中華料理屋でジェーンはジョンと相席になり、やがて寝る中になった。そのジョンが何度も何度も死にてえ死にてえというからバスタブでうたたねをしていたジョンを溺死させた。(ジョン&ジェーン)

元祖、男性は種馬であった。そして、女性は、その相手をする肌馬であった。95歳で他界した母の人生を75歳のサト子はこんな風に思っていた。サト子は娘の哲子夫婦と同居している。哲子も自分は夫だけの肌馬で幸せだった。(肌馬の系譜)

家が命の母親は、家族愛と呼ぶべきものが行き渡っているべきと考え、そのための努力を惜しまなかった。そのため一人でもいなくなったら家の形がいびつになると私は考えたが、それは自分を不自由にすることでもあった。私たち夫婦は思う、子のない父、そして母である自分を母も父も一時でも夢想したことがあったのだろうか。(時には父母のない子のように)

山田詠美の書き物は脳に刺激を与える。そうでなければ高齢者は読まない。すべてがボケ防止だ。


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