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読書を楽しむ「楡 周平 食  王」

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食王とは外食大手オーナーが新事業で設立した会社名

大手外食チェーンのオーナー社長・梅森大介は、築地の仲卸「桶増」社長から中古ビルを購入した。麻布の一等地だが裏通りに面し、飲食店は死屍累々の立地だった。そんな悪所を引き受けたのは、かつて銀行に騙され死を覚悟した梅森を、資金援助で救ってくれた社長の大恩に報いるため。とはいえ買ったからには、ここで商売を成功させたい。全社員にアイディアを募るが、しかし反応は皆無だった。次第に梅森の無謀を咎める声も出始めたそんな折、ビルを丸ごと貸してほしいという人物が現われ、梅森の夢もここまでかと思われたが……。(祥伝社食王紹介より抜粋)

梅森は21年前のバブル崩壊直後に手広く事業をしていたため80億円の借金があり会社を整理した。そのとき築地の仲買の皆さんが懇親会といってゴルフコンペを開いてくれた。ラウンドの最中に家内から電話があり、銀行の口座に築地の仲買人名義で次々と振り込みがあり総額400万円だったと連絡を受ける。その発起人が「桶増」の森川社長だった。森川社長は後継者の長男をくも膜下で亡くし、次男には店を継がせないと言っていた。豊洲移転を機に廃業を考えていた。森川家の次男坊は金沢の老舗料亭「万石」で板前として働いていて10代目の店主より花板(料理長)への打診を受けるとともに次期社長が東京への支店の出店を考えているがその計画が楽観過ぎて到底成功するとは思えないから次期社長を説得して欲しいと相談を受けた。女子大生の滝澤由佳は、英語に堪能で、海外での仕事を友人から勧められていた。故郷の岩手の町は震災以降観光客が減って寂れる一方で水産加工会社に勤務する父親も、おいしい海産物がたくさんあって、通販やデパートの催事場では人気なのに、岩手まで来てくれる観光客は少ないと悩んでいた。

三者三様の思いが社会に出たことがない学生の夢物語からひとつになり、やがて成功が約束されている商売などないからとことん知恵を絞り実現させるまでを描いたコロナ過に必読の本という気もする。金沢までいかなければ食べられない料理を東京で食べることができるようにするにはどうすればいいのか?立地条件に関係なく予約が2ケ月先まで客を呼べるお店にするにはどうしたらよいのか?地方の人口減少に歯止めをかけるためにはどうしたらいいのか?これからの日本を支えていくのは観光だけなのか?世の中のことを学ぶには良い本です。


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