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読書を楽しむ「古市憲寿 ヒノマル」

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昭和16年12月に米英撃滅の聖戦がはじまった

それから1年半が経過し米国による本土空襲が始まったころ

15歳の新城勇二は同級生の小針啓介に誘われて魔女退治に出かける

新城の親は医師で、小針の親は検事だった。新城家は東京から神奈川の観音山に土地を借りて家を建てた。東京で空襲があるという噂が引っ越しを決意させた。ふたりは観音山の中腹にある洞窟に向かった。洞窟には錆びかけた梯子がかかっていた。ふたりは洞窟の中に入り暗闇を歩いた。勇二は首筋に熱い吐息を感じ誰かいると思った。啓介に声をかけると返事がない彼は恐れをなして逃げ帰ったらしい。指と爪の間に何かが侵入しようとしている。振り払っても湧き出すように増殖して手首を覆われた。その時、突然女の声は聞こえた。暗がりの中に女の顔があった。魔女と叫んだら「随分な言い草ね。私の図書館に対する侵入者」と言われた。魔女が手持ちの電灯をつけると洞窟内に赤い本棚と椅子が置かれていた。女は一ノ瀬涼子と名乗り大倉高女の4年生だと言った。防空壕用に掘ったものを彼女が自分専用の図書館として使っていると説明を受けた。涼子に誘われ彼女の家に行き歴史学者の父親・潤を紹介される。勇二の兄・優一は大学生で下宿先から実家に戻ってきた。学徒出陣が決まり戻ってきたのだった。優一は涼子と交際していた。優一は神宮外苑の出陣学徒壮行会に涼子と勇二を誘い東京へ向かったが三田のピースというバーで一夜を過ごし日本劇場でダンスを見物した。優一は第一航空軍教育隊への入営が決まり、涼子や勇二の住む国を守るために戦争に行くと信じることにしていた。昭和19年の1月に優一から届いた手紙には戦争は嫌いですのメッセージが暗号で書かれていた。

自由が統制され、夢を見ることさえ叶わない社会で、涼子や勇二はどこへたどりつくのか。戦争は誰かが大事にしているものを、勝手に奪う。奪う方も使命感で法律違反なことをして成績を上げようとする。今、ウクライナに侵攻したロシア軍の兵士にも言えることだと思う。関係者の胸の内を知るには参考になるかも知れない。


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