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読書を楽しむ「夏川草介 スピノザの診察室」

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雄町哲郎は京都の町中の原田病院で働く内科医である

生まれは東京で、大学も地元の医学部を卒業したが

紆余曲折を経て、いまは京都に移り住んでいる

哲郎の自宅は病院から自転車で30分の距離にある

4階建てのアパートの1階に

中学1年生の美山龍之介と住んでいる

唯一の同居人は息子ではなく

哲郎の一つ下の妹のこどもで

妹は3年前の冬に他界し

シングルマザーであったから

龍之介は小学生の身で両親不在となった

龍之介の家族は、叔父である哲郎だけで

ほかに頼る家族がいなかった

かくして哲郎は龍之介の引き取り手となり

在籍していた洛都大学の医局を退局し

新たな勤め先として原田病院に勤務して

消化器内科を担当している

洛都大学では内視鏡治療の凄腕の医師だった

病院ではマチ先生と呼ばれている

原田病院には4人の常勤医が臨床現場を担当している

龍之介を預かるために哲郎は大学病院をやめたが、そこには目の前に辛い目にあっている龍之介がいて、それを素知らぬ顔で過ごし、自分だけ幸せな人生を送ると言う世界が哲郎の中では成立しなかった。地位も名誉も金銭も、それが単独で人間を幸せにしてはくれないという哲学的な考えによるものだった。原田病院の患者は認知症とか進行した癌とかで治る人などいないので医者が何もしていないと思われがちだが、それは間違いで、難しい病気を治すことではなくて、治らない病気にどう付き合っていくかという、わかりにくいことをやっている。

医者にできることは患者の病気を治すこと、治せば患者は幸せになれるという考え方では、治らない人はみんな不幸のままということになる。治らない病気のひとでも日々を幸せに過ごすことができないのか?と哲郎は問いかける。人は無力な存在だから、互いに手を取り合わないと、無慈悲な世界に飲み込まれてしまう。私たちにできることは「暗闇で凍える隣人に、外套をかけてあげることだ」という。これを人は「幸せ」と呼ぶ。

スピノザとは、オランダの哲学者。お医者さんのことを知るために、医療の難しさを知るために一読をお勧めです。


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