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読書を楽しむ「吉田修一 湖の女たち」

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琵琶湖の周辺で生きる女たち

豊田佳代は介護療養施設「もみじ園」で働く介護士

松本郁子も「もみじ園」で働く介護士

服部三葉は、「もみじ園」で働くユニットリーダーの孫娘

琵琶湖の西湖地区にある「もみじ園」で

心肺停止状態で100歳の市島民男が死亡した

彼は108号室の患者で元京大の教授だった。事件はスタッフの医療ミスと人工呼吸器の故障が原因と思われた。西湖署の濱中圭介刑事が介護士の二谷と豊田佳代に対し取り調べを行った。濱中は医療機器メーカーを訪問し人工呼吸器の故障についての異常を確認した。メーカーは異常が起こればアラームが鳴ると答えた。濱中刑事は患者が死亡した日の当直の介護士・本間と松本郁子にアラームが鳴ったかと確認したが鳴らなかったと答えた。豪雨の日に豊田佳代は濱中圭介の車に追突事故を起こした。出版社の記者・池田は編集部へのタレコミから90年代に起きた製薬会社MMDの血液製剤の副作用で多数の死者が出た事件の取材をしに琵琶湖へ来ていた。池田は西湖署のOBから血液製剤事件について取材をするが当時政治家が絡んでいて事件を立件できなかったと知る。この時、池田は「もみじ園」で市島という男が亡くなったことを知り、その男が血液製剤事件に絡んでいたことを掴む。豊田佳代にはユニットリーダーの紹介で付き合っている国枝という男がいるがうまくいっていなかった。追突事故以来、濱中は佳代に興味を示し、彼女の家を訪ね「会いたかった」と言えと言う。濱中の上司の伊佐美刑事は介護士の松本郁子の単独犯という自白供述シナリオをつくり、シナリオ通りに誘導尋問をするように濱中を諭した。そんな時に松本が交通事故を起こした。警察は犯人が自殺をしようとしたのではと疑う。濱中は結婚していて妻は出産を控えていた。濱中は佳代に電話を入れ、湖畔に呼び出し、佳代は来いと言われて湖に向かった。そんな女を濱中は車の中から見つめ自慰に耽っていた。佳代の同僚がユーチューブの動画にもみじ園が映されていると佳代に教える。動画は108号室の前で停止した。濱中は松本を供述調書にサインさせるところまで追いつめたが最後の最後にアラームは鳴っていないと拒否された。佳代は西湖署を訪問し同僚に見せられた動画を濱中に見せた。濱中は佳代を空室の取調室に連れて行って佳代のシャツのボタンを外しスマホで撮影した。湖畔にも呼び出され、脱げと言われ、動画を撮影され、彼女は濱中に支配された。池田はもみじ園でユニットリーダーの服部に取材したときに服部の孫娘の中学生の三葉が生物部の部活で部員と野鳥観察をするために野鳥センターにあるコテージを借りていることを知る。服部の家で池田は三葉に野鳥のグラビアアルバムを見せてもらった。アルバムの中に白衣を着た部員たちが写っていた。三葉たちは津久井やまゆり園で起きた事件をシェアしていた。そんな時、徳竹会の90代の女性がもみじ園と同じように人工呼吸器を止められて亡くなった。もみじ園と徳竹会の事件はその後完全に迷宮入りになった。濱中は佳代に「もう終わりや」と言った。佳代は「私は戻れへん。この体が元に戻れへん」と言った。池田は三葉たちが津久井やまゆり園の事件を知っていたことで混乱した。

これは最後まで読むと狂気の物語だと気づく。人間の内面のどろどろしたダークな部分を心肺停止事件や血液製剤事件などをミックスし、そこにさらに津久井やまゆり事件までを絡ませている。ひとはこういう欲望を理由もなく持ち合わせているんだよと言っているように聞こえる。なんとも恐ろしい物語でした。