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読書を楽しむ「楡周平 ラスト エンペラー」

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自動車業界はEV(電気自動車)の登場で

産業構造が根底から覆る

大転換期を迎えようとしていた

大手自動車メーカー・トミタの社長、村雨克明は

EV担当役員の壇一馬に社長就任を依頼した

トミタを創業以来支えてきたのはガソリンエンジン車だった。それらは数多の技術者と職工の血と涙の結晶だった。村雨はトミタ史上最高の車を最後に造りたいと言った。その車はトミタのモニュメントになる車だった。具体的な構想は、後世に残るガソリンエンジン車として、トミタの最高級車種「エンペラー」の新型モデルの開発だった。村雨は会長の氷川重治に後任の社長を壇君にすると告げ、さらに新型車の開発を、ガソリンエンジン車で行きたいと話した。かつてF1に参戦した時代があり氷川が社長に就任したときに参入したが、撤退したのも氷川だった。F1の戦績が本業の業績に貢献していなかった。撤退と共にエンジン開発担当の戸倉謙太郎とチーフマネージャーの松浦が会社を辞めた。ふたりはF1ドライバーで息子のような佐村良樹を事故で失っていた。

トミタの新車開発はEVに特化され、ガソリンエンジン開発部門のモチベーションは低下し、余剰人員となっていた。氷川は村雨に最後のガソリン車開発に対し利益を上げられるのかと問うた。村雨は「物好きがいるから数千万円もするスポーツカーが売れる」と答えた。

村雨は岩手に足を運び松浦と会いプロジェクトの指揮を依頼したが断られる。その代わりイタリアの超高級自動車メーカー「ガルバルディ」で働く日本人女性・篠宮凛を紹介される。彼女は亡くなったF1ドライバー佐村の交際相手だった。製造工程がほとんど手作業いうことで生産台数が極めて少なく、価格も高額で1台8千万円以上で取引されていた。村雨も新型エンペラーにユーザーの望みが反映され、そこに希少価値が生じれば、購入を希望する客は後を絶たないと考えた。ファッションでいうところのプレタポルテ車ではなくオートクチュール車の開発。日本車の輝かしい歴史の記念碑として、そしてその未来のために、自動車に人生を捧げた者たちの挑戦が始まる。

日本の経済を支えてきた車もEV車の登場で時代の転換期を迎えた。そのことを察知した村雨社長の最後にやりたかったことが描かれている。どんな車が開発されたのか知りたくなるよね。結末は本を読んでのお楽しみ。物語の中に夢があると楽しく読める。


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