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読書を楽しむ「凪良ゆう 流浪の月」

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夏の夜明けは早い

けれど夜の領域にはうっすらと白い月がまだ残っている

家内家のお父さんとお母さんは野外フェスタで知り合い結婚し更紗を産んだ。市役所に勤めるお父さんと専業主婦のお母さんはよくキスをする、この幸せは永遠に続かなかった。最初にお父さんはお腹の中に悪いものができて消え、次にお母さんに新しい恋人ができて消え、更紗は叔母さんの家に引き取られた。見知らぬ街の見知らぬ小学校へ転校したが友達はできなかった。叔母さんとお母さんは仲のよくない姉妹だった。叔母さんの家には中2の一人息子がいて更紗にちょっかいを出していた。そして、叔母さん宅の居心地が悪くなっていった。暗くなるまで公園で本を読んで過ごすようになった。その公園ではロリコンと呼ばれている男の人が毎日文庫本を読んでいた。蒸し暑い梅雨の季節に公園で雨に降られ、泣きたい気分になっていた時、お父さんと同じ靴を履いていたロリコンと呼ばれている男の人から「帰らないの?」と声をかけられ「帰りたくないの」と答えたら「うちにくる?」と聞かれ「いく」と答えた。男の人はマンションに住み、佐伯文と名乗り19歳の大学生で紅茶を出してくれた。更紗も家内更紗と名乗り「ずっとここにいていい?」と聞いた。文は「いいよ」と答えた。1週間が過ぎてテレビから更紗の名前が聞こえてきた。小学4年生の9歳になる家内更紗ちゃんが下校途中に児童公園で遊んだ後で行方不明になったというニュースだった。梅雨が明けて夏が来ても更紗は文のマンションにいた。文は更紗にとって善意のひとだったがこの暮らしも長くは続かなかった。ある日、ふたりの関係は被害者と加害者という関係に変わり幼女誘拐事件として報道され、更紗の子供時代が終わった。

15年が経過し更紗はファミリーレストランで働いていた。パートさんの送別会の帰りに同僚と夜の8時からオープンするカフェに立ち寄った。このカフェで文がマスターとして働いていた。文は更紗に気付いていなかった。

ふたりの関係は親子ではなく、夫婦でもなく、恋人でもなく、友達でもなく、言葉にできるわかりやすいつながりでもなく、なににも守られておらず、それぞれひとりで、それが互いをとても近く感じさせている。ふたりはどこにいても世間からは誘拐事件の加害者と被害者というレッテルを張られ安住の地はなかったがふたりともひとりではないということに気づいていた。愛ではないが、そばにいたいという新しい人間関係の物語。2020年の本屋大賞受賞作である。

万人受けするストーリーではないがひととひととの関係にルールがあることの生きずらさを描いている。生きる道をどう見つけるかは当人たちが納得できればそれでいい気もする。ひとりではないのだから。


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