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読書を楽しむ「岡田利規 ブロッコリー・レボリューション」

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無作為に本を手に取り借りてみると夏本だった

タイの洞窟にサッカー少年たちが閉じ込められた

あの夏

きみは部屋から姿を消した

きみはぼくが出かけるのを玄関で見送って、午前中に羽田を発つ飛行機に乗ることになっていた。タイのスワンプーム空港に到着してタクシーでバンコクの公園に近いアパートメントタイプのホテルにチェックインを済ませた。バンコクは、ぼくから遠ざかなければ得られない安らぎの場所だった。1日の大半を部屋の中で過ごし、手持ちぶさたに感じられる時間があると1冊の分厚い本を読んで過ごしていた。タイではお酒の販売は17時以降にしか許可されていなかった。外出して食堂で一人で食べるときには入り口が見える向きに座った。通りの風景が絵画や映画のように見えた。部屋でビールを飲みながらある晩、サッカークラブの少年たち12人とコーチ1人が元気に生存している様子をイギリス人ダイバー2名が潜入していって撮影した。僕はメッセージを性懲りもなく送り続けたが、きはただの一度も返信を寄越さなかった。外の食堂で魚介のメニューは一人で食べるには量が多すぎた。タイの友人のレオテーに連絡を入れた。レオテーはいつまでいるのとか?どこにすてぃしているのとか?疑問形の連続攻撃が返信で来た。レオテーはホテルへ軽自動車で迎えに来た。レオテーは日本の西日本豪雨の被害を心配していた。きみは洞窟に閉じ込められたサッカー少年のことを心配していた。ふたりはなにを食べてもおいしいレストランへ出かけた。レオテーはタイの政治体制や社会のありようへの憤りを言葉にした。きみがバンコクに来たのは観光ではなくて、ただ単に日本にいたくなかっただけで、日本での自分の生活環境に留まっているのが無理だった。日本の政治とか社会の事情に関係ない身分で東京では感じることのできない居心地の良さを味わっていた。そんな話を聞いてレオテーは静かに泣き始めた。それは自分の無力さに対してだった。

きみはレオテーにブロッコリー・レボリューションへ行こうよというメッセージを送っていたが、それはお洒落で値段の高いカフェの名前じゃなくて、バンコクではほんとうの革命が起きる、それがブロッコリー・レボリューションという通称で呼ばれていた。

きみは日本にいたとき、ブロッコリー・レボリューションというボードゲームが最近評判になっていると話しかけたが、ぼくには興味がなかった。後で調べたらそんなボードゲームは存在しなかった。ブロッコリー・レボリューションというのはバンコクのカフェの名前だった。ぼくはきみから本当の意味のブロッコリー・レボリューションされたことを知らない。そのきみはホテルのプールで泳いでいた。なんとなくいいじゃん。現代人のストレス解消にも一読を。


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