読書を楽しむ「村上春樹 女のいない男たち」
夜中の一時過ぎに電話がかかってきて 男の低い声が僕に伝える 「妻は先週の水曜日に自殺しました」と 声の主は彼女の夫だった 「なにはともあれお知らせしておかなくては」と言った。 僕は夫が電話で言ったことを、そのまま受け入れた。 彼女は僕がつきあった女性たちのひとりでエムと呼ぶことにする。 14歳のときに出会った女性だと考えている。 中学校の生物の授業で、隣の席に座っていた。 僕が消しゴムを忘れて「貸してくれないか」と言ったら、消しゴムを半分に 割って僕にくれた。 僕は一瞬にして彼女と恋に落ちた。 それがエムとの最初の出会いだったと感じているが、実際はそうじゃない のだけれど、そのように仮定した。 それからエムは、いつの間にか姿を消してしまう。 彼女の死とともに14歳の僕を永遠に失ってしまったような気がする。 エムの死を知らされたとき、僕は自分を世界で2番目に孤独な男だと感じる。 世界で1番孤独な男は彼女の夫だ。 そして、ある日突然、予感も虫の知らせもなく女のいない男たちになった。 ひとりの女性を失うと言うことは、どういうことかを学ぶことになる。