読書を楽しむ「芦沢央 今だけのあの子」
半年前に恵は結婚式を挙げた 同じサークルで、同じ学年で、同じ女子のグループの彩音に 友人代表のスピーチを頼んだ その彩音の結婚式が再来週の土曜日にあることを グループのひとりからのメールで知った だが、恵は招待状をもらっていなかった (届かない招待状) 彩音と恵は同じ出身地だった。 彩音は小学生の頃に母親が再婚していた。 恵には父親がいなかった。 物心がつく前に病死したと母に言われ、顔写真も見せてもらえず、仏壇も なかったし、お墓の場所も教えてもらえなかった。 恵は母に内緒で押し入れに隠してあった父の写真を自分で見つけた。 恵は結婚式のスライドショーで私の父親として1枚の写真をみんなに見せていた。 恵は招かれていない彩音の結婚式に出席して、一歩一歩赤い絨毯の上を父親と 歩く彩音を見て気づいた。そういうことだったのか。