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読書を楽しむ「吉村萬壱 死者にこそふさわしいその場所」

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折口山町に住む”どうしょうもない人たち”の物語

11階建てのマンションに住むゆき子は2年前に妻子ある富岡と知り合ったが好きな相手とは一緒になれず、日陰女に甘んじなければならない「苦悩マニア」だった。妻と別れて結婚するという約束も、家を出て一緒に暮らすという約束も果たされないままだった。富岡はゆき子とセックスの回数が200回に達したら結婚することになっていた。(苦悩プレイ)

浅野哲夫と秋代夫妻。秋代は少し呆けて、尿漏れパッドに失禁する。秋代はときどき歩行車を押して外出するので哲夫は後をつけた。60年連れ添った妻は一軒の廃屋の中に入りリンゴを放り投げた。中から一頭のアライグマが出てきた。(美しい二人)

春日武雄は小さな出版社に勤務していた。武雄はアパートめぐみ荘の第三めぐみ荘3号室に住み、第二めぐみ荘6号室に富田林という中年女性が住んでいて、第一めぐみ荘は空き家だったが1号室に玄関扉を全開にして中が丸見えの状態の裸男が住んでスマートフォンで秋祭りの祭囃子の調べを聴いていた。裸男はあるとき全裸で犬に肛門を舐めさせ、糞を食べさせていた。1年が経って男は姿を消した。(堆肥男)

高岡ミユは37歳の独身で製造業の事務員をしている。彼女は絶望の起床(寝坊ともいう)で一週間会社を休んだ。会社の先輩・中津川佐知子に喫茶店に呼び出されミユは病気だと言われ、いい医者を紹介するから診て貰った方がいいと勧められた。その病院で患者として診て貰うと、あなたにお金が入ると言われた。櫻田脳神経醫院を中津川と訪れたミユは診察を櫻田医師から受け、病名は248Xだと言われ薬の服用と沐浴療法で治療することになった。浴衣のまま沐浴場に入った。沐浴場は精神病患者を演じ合う会員制の倶楽部・精神病苑エッキスだった。会員は自ら進んで狂気に飛び込んで狂気を克服するというものでミユは偽患者として採用され、中津川は会費を支払う会員だった。(絶起女と精神病苑エッキス)

兼本歓はキラスタ教折口山支部長を務めていた、妻の春江とふたりで教会活動をしている。夫婦二人の生活費は春江のスーパーでのパート労働によるものだが、春江は夫より7つ年下の45歳で小太りだが乳房と腰が異様に目立つ体つきをしていて舐めるように眺める信者から寄付金を受けていた。兼本支部長はバーガーショップの食品廃棄物を漁っていた野球帽の男・光男がホームレス仲間から邪険にされているのを目撃した。春江は皮膚科医の酒牧次郎と不倫をしていた。兼本支部長は貧しい人間を助けるために光男を同居させた。教会の栞にカカリュードという言葉があり、他人に世話をしてもらって生活をする人のことだった。光男が住み着いて一か月が経過し春江は寡黙になりストレス性のアレルギーを発症し教会を出て行った。光男は人の世話になるということに依存して中毒になり泥溜りに陥った。(カカリュードの泥溜り)

秋祭りが近づくと折口山町では「捨て身祭り」というだんじりの曳き回しがあり250年間受け継がれてきた。町にはこのような祭りを忌み嫌う人間が存在して、鳴り物の音に耐えかねて、町はずれの植物園を訪れていた。ゆき子と富岡は2年半振りに会った。植物園の中心には巨大温室がある。浅野夫妻は若かりし頃、人目を忍んで性愛の交歓を愉しんだ場所にいた。兼本支部長は光男を捜していた。春日武雄と富田林は自転車で植物園の敷地内に入り、歩いて温室へ向かった。遊歩道には精神病苑エッキスの面々が集団で歩いていた。温室の奥で春日武雄と富田林は腐っている裸男を見つけた。温室の天井の鉄骨に引っ掛かった1枚の護符を拠り所としてこの世に留まり世界を見下している者がいた。その者は、この町の住人は精神が腐ったようなのが少なくないが、人間が堆肥になるなら同じ腐り方をしないのが面白いと思っていた。(死者にこそふさわしいその場所)

読書をするということは時として毒書にも出会い読めばそれなりにおもしろい。


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