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読書を楽しむ「萩原 浩 海の見える理髪店」

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その理髪店は海辺の小さな町にあった

時代遅れの洋風造りで、店名を示すものはない

営業中という札がさがっていた

店の中は、古びた外観を裏切るたたずまいだった。 こぎれいで、清潔で、整然としている。 店主は客用の椅子の脇に付属品のように立っていた。 僕が、この店に予約を入れたのは世間が店主をうわさにしていたからだ。 店主の腕に惚れた大物俳優や政財界の名士が通いつめていたという逸話。 大物俳優が亡くなった時に、再びそのエピソードが話題になり、店主が東京 から離れた海辺の小さな町で理髪店を続けていることが雑誌の記事になった。 椅子に座り、白い上掛けを着せられ「場所はすぐにわかりましたか」と問いかけられ 頷いたら、唐突に話しをしだした。 「ここに店を移して15年になります」と。 本を読むことで「いい話」にめぐり合うことがあります。 それは自分が体験したことのない、知らない物語。 そして、その物語の中に読書を魅了してやまないスパイスがちりばめられていて 読み終わってみると「いい話」だったと合点が行く。 この物語も、饒舌な老店主が自分が床屋になった戦前の経緯から戦後、慎太郎刈り が流行し店が繁盛したこと、ビートルズが来日して長髪がブームになり、男が床屋へ 足を運ばなくなったこと、経営がうまくいかず酒びたりになり2度離婚したこと、 26年前に店を任せていた男が独立したいといって口論になり、ヘアアイロンで相手を 殴り死なせてしまったことなど秘められた過去が明らかになります。 そんな店主が、こんな私でも生きてきた甲斐があったと呟くエピソードは圧巻です。 海の見える理髪店があったら行ってみたいものです。 そして、自分にも生きてきた甲斐があったかと問うてみるのもいいかも知れません。今日BSでこの本が原作のドラマを観た。


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