読書を楽しむ「朱川湊人 あした咲く蕾」
昭和44年6月 大阪万博の前の年 大阪から母の妹の美知恵がやってきた 僕はこのとき小学2年生だった 美知恵おばさんの不思議な力を 目の当たりにしたのは、数日後のことだった 庭に枯れかけている朝顔の鉢があった。 それは僕が気まぐれで植えた朝顔だった。 おばさんに指示され僕は枯れている葉っぱを取った。 そして、朝顔の鉢の前に正座して、右手の親指と人差し指で根元近くの 蔓をつまんで大きく深呼吸すると、息を止めて目を閉じた。 枯れかけていた朝顔の蔓が緑に染まり、先端が生き物のように動き出し、 新しい葉っぱがどんどん出てきた。 根元近くに淡い白に青のらせん状の縞の入った蕾ができた。 おばさんは言った「これがあした咲く蕾や」。 おばさんの不思議な才能ーそれは当時、僕と母しか知らない秘密だった。 世の中には信じられないことをするひとがいるお話。